エモーショナルサポートは、日本語では「情緒的支援」「情緒的サポート」などと表現されます。簡単に言えば、感情や気持ちを支えることです。
自分が自分にできるエモーショナルサポートの基本は、感情を消すことではなく、気づいて、受け止めて、扱いやすい形にしていくことです。
この記事では、自分を支える4つの方法と、よくある誤解を3つ紹介します。
基本の考え方
感情は、消そうとしても消えにくいものです。無理に抑え込むと、かえって気になってしまうこともあります。
感情には、危険を知らせたり、自分にとって大切なものを教えてくれたりする役割があります。まず気づき、受け止め、そのうえで扱いやすい形にしていく。この流れが、これからご紹介する方法の共通点です。
自分でできる4つの方法
気づく(マインドフルネス・感情のラベリング)
感情は、気づかないままだと、なんとなくイライラする、疲れる、といった形で日常に影響してきます。まずは「いま自分はこう感じている」と気づくことが、扱いやすくする第一歩です。
やり方
- 体に注意を向けます。胸が重い、肩がこわばっている、など。
- その感覚に名前をつけます。「不安」「がっかり」「さみしい」「焦り」など。
- 良い・悪いの判断はせず、「いまはそうなんだな」と眺めます。
胸のあたりがざわざわしている。これは「不安」かもしれない。
「イライラ」だけでなく「がっかり」「もどかしい」「見下された気がした」のように、感情を表す言葉が細かくなるほど、対処の選択肢も増えやすいとされています。
慣れてくると、身体に起きる小さな変化に、早い段階で気づけるようになります。私はこれが、ちょっとおもしろいと感じています。「こんな小さなサインを、自分はふだん見逃していたんだな」と気づくからです。
身体の感覚から感情が生まれる、という考え方もあります。試してみると、「なるほど、一理あるかも」と思わせてくれます。
注意:強い苦痛のさなかに感情をじっと見つめると、かえってしんどくなる人もいます。つらいときは無理をせず、短時間で切り上げてください。
言葉にする(ジャーナリング)
頭の中でぐるぐるしていることを紙に出すと、考えを整理しやすくなります。気持ちが落ち着く人もいれば、あまり変わらない人もいます。続けることで感情に気づく力が上がっていきます。
やり方(5分~)
- 何が起きたか(事実)
- そのとき何を考えたり、感じたりしたか(思考・感情)
- 次にできる小さなこと(あれば)
今日、会議で意見を流された。(事実)
「軽く見られたのかな」と考えた。(思考)
悔しい。少し恥ずかしい気持ちもある。(感情)
明日、要点を一文にまとめて伝えてみよう。(次の一歩)
思考を書き出してみると、おもしろいことに気づきます。私たちは、事実に対して、もっともらしい推測を自然にしているのです。
さきほどの例でいえば、事実は「意見が流された」ところまでです。「軽く見られたのかな」は、そこに私が足した推測です。「事実はここまでだったんだな」と気づくと、感じ方(感情)も変わってきます。すると、対応の幅も広がります。
また、感情を書き出そうとして、「あれ?何を感じていたのかな。何も感じてない」と、最初はまったく気づけないことがあります。それは、ごく自然なことです。続けていくうちに、気づける感情が少しずつ増えていきます。
増えていく感情のバリエーションを、ぜひ眺めてみてください。意外な感情が出てきて、「え、そういう感情なら、こうしたほうがいいかも」と、対応のヒントになることもあります。
注意:同じ出来事を同じ角度で何度も書いて苦しくなってきたら、整理ではなく「反すう」になっているサインです。その日は切り上げてみてください。
自分に語りかける(感情の承認・セルフトーク)
感情の承認
感情を正そうとせず、「そう感じるのは自然だ」と認めます。
とくに怒りや嫌悪、嫉妬のような感情は、「こんなことを感じる自分はいけない」「心が狭い」と、感じたこと自体を責めてしまいがちです。すると、もとの感情の上に「自己嫌悪」が重なって、しんどさが二重になります。
「自分は責めていない」と思う人でも、心のどこかに、少しの罪悪感を抱えていることはないでしょうか。
ここで大切なのは、感情を「感じること」と、それを「行動に移すこと」を分けて考えることです。誰かに怒りをぶつける必要はありません。ただ、「いま自分は怒っている」と認めるだけです。感じてもいい。そのうえで、どう振る舞うかは、あとから選べます。
認めてみると、感情と戦っていた力がふっとゆるんで、息がしやすくなることがあります。
緊張して当然だよね。大事な場面だから。
腹が立ってるんだね。大事にしていたことを、軽く扱われたように感じたんだもんね。
サードパーソン・セルフトーク
たとえば、「私、なんでこんなに緊張してるんだろう」と考えるところを、「〇〇、なんでこんなに緊張してるんだろうね」と言い換えます。それだけで、気持ちの渦の中にいた自分が、少し外から見えてきます。
私たちは、友人が悩んでいるときには、落ち着いてやさしい言葉をかけられるのに、自分のこととなると、焦ったり責めたりしがちです。名前で呼びかけると、自分を「悩んでいる友人」のような位置に置けて、そのときのようなやさしい言葉が出やすくなります。この「少し距離を取る」効果によって、感情に飲まれにくくなる可能性があるとされています。
- 心の中でも、声に出しても、紙に書いても大丈夫です。
- 呼び方は、自分の名前、「あなた」、ニックネームなど、しっくりくるものを選びます。
- 友人に話しかけるときのように、ゆっくり、やわらかい調子で。
- 「感情の承認」と組み合わせると、より使いやすくなります。
〇〇、いま緊張してるね。それだけ大切なことなんだよね。
注意:
なんで声かけよう、と悩んでしまう人は、「親友が同じシーンでが悩んでいる」と想定してみてください。その親友が悩んでいたら、私はなんて声をかけるだろう?と。
照れくさい、しっくりこないと感じるときは、無理に続けなくて大丈夫です。また、無理にポジティブな言葉にする必要はありません。
名前で呼んで責めるのは逆効果になりえます。「〇〇、なんでこんなこともできないの」ではなく、真剣にそこのことで悩んでいるであろう友人に向ける言葉を選んでください。
身体から整える(呼吸、セルフ・タッチ)
呼吸法
吐く息を長めにするゆっくりした呼吸が、落ち着くきっかけになる人がいます。
やり方
- 4秒かけて息を吸う
- 7秒間、息を止める
- 8秒かけて息を吐く
- 5回ほど繰り返す(回数は好きなだけ)
こちらは、4-7-8呼吸法という方法です。他にも、ボックス呼吸法などの代表的な呼吸法があります。試しやすいショート動画があったりするので、それを使うのもよいと思います。
セルフタッチ
ハグって効果があるとされていますが、それを自分で自分にしても効果があるのでは?ということで、セルフハグやセルフタッチというものが研究されています。やってみて落ち着くなら手軽で良いと思います。
- セルフタッチ:胸や腕に手を当て、静かに呼吸する
- セルフハグ:両腕を胸の前でクロスさせ、左右の手でそれぞれの肩(または二の腕)を優しく抱きしめる
よくある誤解3つ
誤解1:「感情は、吐き出せばスッキリする」
気持ちを言葉にして誰かに聞いてもらうことが、いつも効くとは限りません。
「吐き出してもすっきりしない」という趣旨の研究があります。私たちの文化には「吐き出せばすっきりする」「溜め込むのはよくない」という考え方が根づいていて、そのためか、自己申告では「吐き出してすっきりした」と感じる人が多いようです。ところが、実際には思ったほどすっきりしていなかったり、問題の解決につながっていなかったりすることがあるようです。
とくに感情を勢いのままぶつけたり、同じ話を何度も繰り返したりすると、かえって強まることがあります。
ここで区別したいのが「反すう」です。反すうとは、同じ出来事や原因を、同じ角度で何度も考え続けることです。話しても新しい気づきがなく、終わったあとのほうが重くなるなら、吐き出せているのではなく反すうになっているサインです。
やり方
- 相手を選ぶ:アドバイスより聞いてほしいだけなら、先に「答えはいらなくて、聞いてほしい」と伝えます。
- 時間を区切る:「10分だけ話す」「5分だけ書く」と決めます。
- 終わり方を決める:「じゃあどうする?」と、小さな次の一歩で締めます。
- 悪化したら切り上げる:話すほど気持ちが高ぶるなら、一度やめて、落ち着いてからにします。
誤解2:「感情を言葉にすると、その感情が強くなる」
感情に「不安」「がっかり」と名前をつけることは、感情の調整に役立つとされています。名前をつけると、感情に飲み込まれた状態から、「自分はいま不安を感じている」と少し距離を取って見られるようになるためです。
強くなるように感じるのは、名前をつけているのではなく、出来事の中身を繰り返し語っている(反すうしている)場合が多いようです。
- ラベリング:「いま自分は悔しさを感じている」と、感情に名前をつける
- 反すう:「あの人があんなことを言った、なぜだ、ひどい」と、出来事を何度も再生する
誤解3:「嫌な感情は、なくしたほうがいい」
嫌な感情には、危険を知らせる、大事なものを教えてくれる、といった役割があります。なくそうとして無理に抑え込むと、かえって頭から離れなくなることがあると言われています。無理にポジティブに考えようとして、しんどさが増える人もいます。
一方で、気を紛らわせることは悪いことではありません。強い感情に飲まれているときの一時しのぎとしては、役に立つ場面があります。
やり方:目標を「消す」から「付き合う」に変える
- 気晴らしは「一時停止」として使う:散歩、家事、音楽などでいったん離れ、落ち着いたら戻ります。
- 戻ることを決めておく:「夜に10分だけ、今日のモヤモヤを書く」のように、先送りしっぱなしにしません。
- 無理なポジティブは要らない:「不安だけど、できることはやった」くらいで十分です。
終わりに
正直に言うと、感情を扱うのは、私自身もあまり得意ではありません。きっと、多くの人が同じように、感情との付き合い方に悩んでいるのではないでしょうか。だからこそ、この記事を書きました。
私自身、嫌な感情を認められるようになってから、とても息がしやすくなりました。怒りや嫌悪のような感情に対して、「こんなことで怒るなんて」「感じるべきじゃない」と考えるのは、その感情を否定することです。それが、実はとてもエネルギーを使うことだったと気づきました。否定というものは、知らないうちにとても疲れるものなのです。
いまは、怒りを感じている自分に「怒って当然だよね」と言えるようになりました。感情を認めても、怒りに飲み込まれるわけではありません。「怒ってはいる。さて、行動はどうしようかな」と、選べるようになります。
本当に伝える必要がある場面なら、怒りを手がかりに、はっきり意思を伝えることもあるでしょう。ここは怒りをぶつけずに、目的にかなう別の行動をとるほうがよさそうだ、と選ぶこともあるでしょう。感情を認めることは、感情のとおりに動くことではなく、行動を選ぶ余地をつくることです。
前にも書きましたが、感情には、危険を知らせたり、自分にとって大切なものを教えてくれたりする役割があります。感情に気づく力が育つと、感情そのものが扱いやすくなるだけでなく、自分がもっている考え方や価値観にも気づけるようになります。
感情は、人間にもともと備わっているものです。うまく付き合えるようになると、ずっと生きやすくなります。そして、自分の感情を大切にできるようになると、他の人の感情も、同じように尊重できるようになるのではないかと思っています。
社会では、まだ感情が十分に大切にされているとは言えないと感じています。どちらかというと、感情は後回しで、「自分でなんとかしなさい」「人前では抑えるべき」と言われがちです。それでも、感情への理解が少しずつ進んで、お互いの感情を無理なく扱い、支え合える、あたたかい社会になっていくといいなと思っています。
ひとりで抱えきれないときは、誰かに頼ってください。「つらい」と感じた時点で、頼って大丈夫です。頼ることも、自分の感情を大切にする方法のひとつです。
ゆっくり、できるところから。まずは、自分の感情と仲良くなっていってみてください。
